ジョゼフ・ライト・オヴ・ダービーの有名な絵画『空気ポンプ』についての議論を確認する必要があって、だいぶ昔に読んだ本をもう一度読み直す。文献は、Solkin, David H., Painting for Money: the Visual Arts and the Public Sphere in Eighteenth-Century England (New Haven: Yale University Press, 1992).
空気ポンプで真空を作る実験を描いた絵画で、科学史の研究者で知らない人はいないだろう。この絵画についてこの研究書が面白いことを言っている。まず、『空気ポンプ』も含めて、『太陽系儀』『グラディエイター』『美術アカデミー』という四点のライトの作品は、どれも「ろうそくのともしびに照らし出される情景」という独特な表現スタイルをとっており、これを、ロックの認識論のモデルとなったカメラ・オプスクラの例と関係づけて理解する。光が作る像が入ることで、精神は知識を得るというのである。そこから、シャフツベリーの美学と道徳の結びつきを論じた後、この絵画の分析に入る。まず、この絵画は、特定のパトロンのために描かれたものではないこと。次に、描かれているのはシャフツベリーの美学が前提としていたような土地所有に基く貴族・地主階級ではなく、中産階級などを含む多様な職業の人々であり、巡回自然哲学者まで含んでいる。ここに描かれているのは、事物を生産し知識を消費する人々が出会って形成する公共圏なのである。そこに、教育の場として、家族に擬された小集団が描かれており、ジェンダーや年齢の問題が織り込まれている。
ちなみに、画面左側には、実験には何の興味も示さずに、ロマンティックな月の夜に、二人の世界に入っている若者が描かれている。もともと、大学生のお年頃の若者が科学に持つ興味なんて、ほとんどの場合、この程度のものですよね(笑)