この短編集の原題は Interpreter of Maladies といい、そういうタイトルの短編がある。その作品を借りだそうとしていた私に、秘書が、翻訳なら持っていますよというから、翻訳を借りた。日本の文芸書は、美しい装丁に端正な活字が使われていて、手に取って開くのが楽しいようにできている。
「病気の通訳」と題された短編の主人公は、本物の通訳になる夢を果たせず、いまはインドの村で、医者に雇われて、患者が話すグジャラット語を医者がわかる言葉に訳している中年の男が主人公である。この男は、週末には、観光客を案内するタクシーの運転手の仕事をアルバイトにしている。その仕事の時にアメリカ人の家族を案内して、その家族のうちの奥さんのほうが、患者の話を医者に伝えているなんて素敵と言って自分の仕事に興味を示したことで、少し心が揺れ、妄想が膨らむ - それだけの話である。