必要があって、ロンブローゾ『男性犯罪者』をチェックする。文献は、Lombroso, Cesare, Criminal Man, translated and with a new introduction by Mary Gibson and Nicole Harn Rafter (Durham: Duke University Press, 2006).
ロンブローゾの『女性犯罪者』の学術的な英訳が2004年に出版されて、同じチームによる主著の翻訳。この主著には5つの版があって、その中から新たに付け加えられた版を掲載することで、部分を損なうことなく5つの版の全体像を一冊の英語の書物に入れて、原虫も訳注もつけ、原著のイラストもたくさん載せ、図表は場合によっては描きなおして解説も付けた、本作りの名人芸。しかもそれがペーパーバックで入手できる。
編者が力説するように、ロンブローゾは、優生学とナチズムの悪の根源であるかのように単純化されて誤解されているが、彼の考えを、英語圏と世界の読者に知らせるための重要な訳業。優生学をナチズムとパラレルにとらえる考え方は、プラスとマイナスの双方の側面を持っているが、最近のリサーチは、そのモデルが時系列的にも地域的にも内容的にも不十分であることを教えている。その一方で、優生学は決してトリヴィアルにとらえられることではなく、ナチズムを超えて、現代社会の発展の根幹に構成するものだということを教えている。新しい優生学の理解のための基本文献が信頼できる英訳で手に入ることになったのだから、このエディションは書棚に持つべきだろう。どなたか、この書物をさらに日本語に翻訳する人はいないでしょうか。