ちょっと評判になった岩波の『日本語 語感の辞典』を買って少し眺めてみた。英語を書くときに便利なシソーラスやコロケーション辞書が日本語にもあればいいなとずっと思っていて、電子辞書についている大修館の類義語辞典をわりと使っているが、この『語感の辞典』の評判がわりといいので、つい誘惑された。
読んで面白く頷くことが多いのは確かである。たとえば「こする」「さする」「なでる」の違いを、「こする」は「道具や目的はさまざまで、摩擦の強さにも規制がない」、さするは「肉体的・精神的な痛みを和らげる目的で、背中や患部を手の平で何度も軽く摩擦する場合に限られる」、「なでる」は「反復動作の『さする』と違って、一回だけの場合でも使える」というように区別していて、納得して面白い。「コーヒー」と「珈琲」の違いは、「珈琲」と書くと何となく本格的な感じになり、通常の片仮名表記の場合は店によって味がピンからキリまであるが、漢字で書くと、少なくともインスタント・コーヒーは出て来ない雰囲気に変わる。「古い煉瓦造りの洋館の薄暗い一室で、猫脚のテーブルの上にウェッジウッドかヘレンドかロイヤルコペンハーゲンなどの器に入って出てくると、『コーヒー』より『珈琲』のほうがイメージが合う気がする」とあるのは、レファレンスの記述と言うよりも、お酒の席などで談論風発的にすると盛り上がる話題だろう。
というわけで、読んで楽しいけれども、レファレンスとしては使いにくいと思う。ある単語を引いてその項目を読み、そこに数点あげられている語感が違う類義語を読んで、納得するという楽しみ方をする本だと思う。
あと、医学関係の言葉を引いてみたけれども、これらは、正直、あまり熱がこもっていない説明である。「病院」をひくと、「病床数が20以上の医療施設を言う」というような、お役所の定義のような説明があって拍子抜けした。医療関係の言葉は、それが専門的な文脈で使うかどうかということにしか主たる関心がないような説明が多かった。
まあ、ときどき引いて楽しもう。