黒死病の原因

必要があって、黒死病の原因はペストではないと論じた論文を読む。文献は、Cohn, Samuel K., “The Black Death: End of a Paradigm”, American Historical Review, 107(2002), 703-738. 

14世紀の黒死病は、20世紀のペストの症状や疫学的特徴を共有しない例があるということを延々と論じて、黒死病ペスト菌が引き起こしたのではないということを論じた論文。これは、私がこの論文を読むのが遅かったのがいけないのかもしれないが、病原体は何だったかという問題を論じるためには、ある意味で切り札の役割をはたすことができる古DNA分析の方法がすでに開発されて用いられている。それを全く使わない議論だったので、読み始めてしらけた、痛々しい感じが漂った。ヨーロッパ人が免疫を獲得した云々という話もピンとこなかった。

黒死病の病原体をめぐる議論は、2010年の10月に出版された古DNA学の大規模なリサーチによって、新しい段階に入った。このリサーチは、黒死病の死者がまとめて葬られた墓地を、イタリア、フランス、イギリス、オランダなどについて調べて、どの墓地の人骨サンプルからもペスト菌のDNAを発見したものである。(古DNA学を実際に知らないので、この書き方は不正確かもしれません。)これは、PLoS Pathogen という雑誌で、ウェブ上からDLできる。
http://www.plospathogens.org/article/info:doi%2F10.1371%2Fjournal.ppat.1001134