『てにをは』辞典

今日は無駄話。

三省堂から新しくでた辞典。日本語の文章がうまく書けないことを長いこと実感しているし、最近ネット上などで話題になったから、買ってみた。話題になったものを買ってうまくいくことは少ないけれども、この『てにをは辞典』は、本当に使えるもので、私が求めていたものにかなり近い。

英語を書くときには、英英辞典の他に、シソーラス類義語辞典)、コロケーション(連語)辞典、スタイルのマニュアル(私はJoseph M. Wiiliams のStyle を使っている)の三種類を使っている。理系・技術系の学術論文のような英語であれば、こういったレファレンスなしでもいいかもしれないが、人文社会系の学術論文を英語で書くためには、「教養ある人が書くような英語」を書くというハードルを絶対に越えなければならない。(他にもいくつも越えなければならないハードルはあるけれども、それは略す。)そのためには、こういった言語系レファレンスを引きまくることが、私には必要だった。

日本語を書くときにも、同じようなものをひきまくれば日本語がうまくなるのではないかと思っている。国語辞典もさいきんよく引くようにしている。ところが、これが必ずしもうまくいかない。日本語の類義語辞典である大修館の『大シソーラス』は、電子辞典に入っていたので喜んで使ってみたが、英語のシソーラスほど便利だと思わなかった。これは、大修館が悪いというよりも、類義語をたくさん使うことが日本語の水準の向上につながらないということもあるのかもしれないと思っている。岩波の『日本語 語感の辞典』は、読んで楽しく、たぶんそれ以上に書いて楽しく、読み手が通読すると日本語がうまくなるかもしれないというもので、レファレンスではない。

ところが、この『てにをは辞典』は、きっと使えるし、長く使っていると日本語の能力が上がると思う。まず、文章を書く時の状況にあったかたちで使えるように設計されている。ある単語を主語においたときに、それをどんな述語で受けたらいいかと考えるときに、その述語を教えてくれるということである。たとえば、「寓意」という言葉を使いたいときに、「寓意」を引くと、それを助詞「を」で受ける言葉として、「寓意を諭す」「寓意を秘める」「寓意を含む」という三つの述語を示してくれる。「飛び石」という言葉を使いたいときには、「飛び石を敷く」「伝い歩く」「伝わる」「踏む」「渡る」という述語を教えてくれる。「飛び石を伝い歩く」という言葉は、私にはすぐには出てこないし、「飛び石を渡る」というつながりも、私には到底思いつかないコロケーションである。これは、英語のコロケーションとほぼ同じ機能を持っていて、私が日本語を書くときに必要としていたレファレンスそのものである。

私は、このレファレンスはブレイクすると思うけれども、どうだろうか。