来年度の準備に入った。一般教養の授業では、「身体の歴史」という主題で、新しい内容の一年分の授業を作る予定である。この科目で新しい内容の授業を作るのは5年ぶりくらいだから、気合いを入れて予習をしている。種本としては、Berg 社から出ている、A cultural history of the human body の六巻本と、藤原書店から出たコルバンの『身体の歴史』の三巻本を使う。多少のむらはあるけれども、Berg の六巻本の章は、いずれも質が高くて、少しこちらで準備をしてやれば、わかりやすくて面白い授業ができるだろう。
その関係で、まずは古典古代の医学の説明を読む。文献は、Holmes, Brooke, “Medical Knowledge and Technology”, in Daniel H. Garrison ed., A Cultural History of the Human Body in Antiquity (Oxford: Berg, 2010), 83-105.
古典古代の医学の本質的な特徴を、その対象としての「身体」soma が形成されたことであると捉え、その過程において、症状 symptom をどのように位置づけるのか、という大問題を軸にして一気に書き上げた入門編である。それだけでなく、同時代の他の知的な分野との関係もわかりやすく説明されている。医学と自然哲学の関係については、自然哲学が発見したインパーソナルな自然の原理と同じものが人体を構成しているとすることで、宗教的で超自然的な存在から医学が離れることができた。道徳哲学との関係は、身体と魂の二分論にもかかわらず、魂のケアと並行して捉えられていた身体のケアの重視は、医学を知的なエリートの意識の中にしっかりと位置付けることになった。
私はもちろん古典医学の専門家ではないけれども、古典医学の本質と思想的全体像を示してコンパクトにまとめたという点では、この章より優れたものはちょっと思いつかない。素晴らしい章である。彼女が書いた書物をすぐに注文した。この章は、この書物の内容をリハースしたらしい。
学部1・2年向けに教える内容としては、マテリアルとしてはレベルが高すぎるけれども、これは教えたくなる内容である。うまくまとめてみよう。