同じくギンスブルグから、麦角の幻覚作用について。カルロ・ギンズブルグ『闇の歴史―サバトの解読』竹山博英訳(東京:せりか書房、1992)
『ペナンダンティ』には、夜の飛行、動物への返信という、シャーマニズムの影響が認められる。フリウリ地方の民衆は、どこからかシャーマニズムの影響を受けていたのである。このような、民衆が持っていた世界のありかたと自分の行動についてのイメージは、魔女狩りや異端審問という現象を構成する一つの柱となった。エリートの側は、告発や社会防衛のメカニズムとして悪魔学などを作っており、これももう一つの柱となった。
このシャーマニズム的な民衆文化の存在を考えるときに、恍惚状態を起こすための精神変容物質があったのではないかと仮定できる。その物質として、ギンスブルクは二つの植物をあげている。一つがベニテングタケで、もう一つが麦角である。ベニテングタケは、ペルシアでは「ハオマ」「ソーマ」などと呼ばれており、ヨーロッパでも使われた可能性がある。麦角、特にライ麦のそれについては、流行病的に重い病気を起こすこともあったが、それを意識的に薬として用いていたことも考えられる。16世紀には堕胎薬として用いられたという証言もある。また、麦角の呼ばれ方も、それが精神変容に用いられたことを示唆する。ドイツ語では「狂ったライ麦」、フランス語では「酔いどれライ麦」というからである。動物への変容との重なりを示唆する「ライ麦の狼」という言い方もある。
断片。オカルトな民衆文化の歴史研究の背景には、技術的進歩の危険や代償に対する不安があり、資本主義が打倒した文化を再発見しようという欲求があると言っていること。
ギアツによるキース・トマスの批判に対して、トマスが答えたこと「歴史学者は、深部の社会構造という概念には親しみを持っているが、目に見えない心的構造という概念を取り上げてそれを調査するのには慣れていない」。