安政江戸地震

必要があって、安政江戸地震の有名な刊行物である、仮名垣魯文の『安政見聞誌』を分析した論文を読む。文献は、Koehn, Stephan, “Between Fiction and Non-Fiction – Documentary Literature in Late Edo Period”, in Susanna Formanek and SeppLinhart eds., Written Texts – Visual Texts: Woodblock-Printed Media in Early-Modern Japan (Amsterdam: Hotei Publishing, ), 283-310. 

斬新な視点を使った、とても面白い論文だった。災害を記述する言説のジャンル成立を論じている。『安政見聞誌』という出版物を、絵とテキスト、それも異質なテキストを組み合わせたコラージュとしてとらえ、そのコラージュの構成を分析する論文である。このコラージュは、江戸時代の後期、特に「かわら版」が現れてから成立したスタイルであった。それまでは、古代の中国の史書を模倣した簡潔で正史的な無味乾燥な災害の記述か、鴨長明のような日記・随筆の形式の見聞きしたことを挿入している自由な記述であった。江戸後期のコラージュは、はるかに多様な複雑性を持つジャンルを成立させた。政治関係の記事が検閲された危険性を考えると、物書きにとって災害記事は、腕を振るう場でもあった。『安政見聞誌』は、正史と随筆とドキュメンタリーと科学ルポルタージュと週刊誌記事とヴァラエティ番組を組み合わせたような雑多さをもち、しかも絵入りの安政江戸大地震の記事である。

いま検索したら、原文のフル画像はあちこちにあるけれども、手に入りやすい現代語訳がないようだ。この本は、ほかの安政地震本とともに、いま・この瞬間に・出版されなければならない本だから、出版社はすぐに現代語訳と解説してくれる先生を探して文庫化するのがいい。