民族衛生学

必要があって、民族衛生学の文献を読む。 文献は、古屋芳雄優生学原理と人類遺伝学』(東京:雄山閣、1931)
 1927年以来、千葉医科大学で社会衛生学講座の中で行っていた。当時、民族衛生学を教えていたのはここだけであった。 民族衛生学は、優性遺伝学と生物測定学からなるが、これは、「従来のユートピア式の優生学象牙の塔を出て街頭に歩み出で、民族擁護の運動に携わる唯一の道」である。 1 
遺伝病についての説明が第9講「人類遺伝病」で50ページ、これに第10講「遺伝性精神病」をくわれると60ページになる。
 民族優生学とは、民族の素質を改善する学問である。ここでいう民族とは、通常の文化・習慣・国語にくわえて、生物学的近親者という意味を含めており、ドイツ語のRasse, 英語の race にちかい。 2-3 素質というのは、内的遺伝質のことであり、これは個人についていう言葉だが、ここでは集合的なものを含んでいる。そもそも優生学というのは、社会公共の利益であり、これは個人の主観的な利益とは必ずしも両立しないから、個人の立場を止揚した全体の素質をいう。しかし、ここには、個人の利益を犠牲にする道徳的な反省があるべきであり、無批判な「優生狂」はおろかしい。改善というのは、世代にわたった改善をいう。内的素質というのは、もともと個人の一生の中では変えることができないものだから、将来の代にわたって改善するものである。
 シュペングラー『西洋の没落』に影響をうけて、文化には一定の年齢があるという考えをもつ。 
 163 劣性遺伝病患者を産む多くの結婚は、外敵には健康で内部にその素質を持つもの同士のそれである。血族結婚を避ける理由は、劣性を外にもちだすからである。164 レントゲンが遺伝物質に変化を与えるように、ニコチンやアルコール、水銀なども変化をもたらすのである。