『哀れなハインリヒ』

必要があって、中世の吟遊詩人のハルトマン・フォン・アウエが13世紀末に書いた『哀れなハインリヒ』を読む。筑摩の世界文学全集の中世の巻に訳されている。

騎士ハインリヒはすべてに恵まれた幸福な男だったが、ハンセン病にかかってしまう。その治療法を訪ねると、完全に純潔で、しかも彼のために甘んじて死ぬ気になっている生娘を手に入れ、その娘の心臓をえぐってその血だけが私の病気に効能があると伝えられる。彼が一緒に住み始めることになった小作人の娘である少女が、しおの事情を知り、「あたしの体が薬の役をするんだわ」と言って彼のために犠牲になることを決意する。二人はサレルノにいき、娘は医者の手によって裸にされ、手と足を縛られ、生きながら心臓を切り取るべく、医者は砥石でメスを研いでいる。彼女は一糸まとわぬ姿で立ち、そこで金属の刃が研がれている。それをのぞきみたハインリヒは、その娘の裸体があまりに美しいので、彼女をいけにえにすることを断念し、一緒に連れて帰る。しかし、神はその心をよしとされ、帰国の途上でハインリヒは清らかな体になり、二人は結婚した。

血とエロスとグロテスクの魅力に満ちたこの作品は、19世紀の後半から20世紀の初頭にかけて復興した。イギリスではロングフェロウが翻案して「黄金伝説」と題された詩をつくり、これはサリヴァンのカンタータとなった。ドイツではオペラになり、劇作となった。