『失われた世界』

ホームズもので有名なコナン・ドイルの冒険小説『失われた世界』を読む。創元推理文庫から龍口直太郎の訳が出ている。

私はこれを小学校の図書館で読んだ。『ソロモン王の洞窟』とカップリングで一冊か、それとも隣に並んでいたかで、この二冊の記憶がときどきまじる。いかにも昭和の少年冒険小説らしい、白黒の勇壮な挿絵があった。

南アフリカの中央部に、地殻変動で隆起して周囲から隔絶された土地があって、そこでは時間が止まって、恐竜とか猿人といった現在では絶滅した生物が生息している。そこに、イギリスから科学者や新聞記者が探検に行くという筋である。これは1912年に出版された作品だが、当時のヨーロッパ人の探検と学問が持つ帝国主義的な側面をよく表していること、この時期には古生物学がスリリングな学問だったことなどがわかるだろう。

今回読んでみて、皮肉がたっぷり効いたリアリティを持つ仕方で科学者が描かれていることに驚いた。その理由というか背景の一つは、実は主人公・書き手がジャーナリストという設定で、今の言葉でいうとサイエンス・コミュニケーションの舞台で物語を起こさせているからである。それからもうひとつ、これは桜井文子さんが昔研究していたことだけれども、ここで描かれている学会の姿に驚いた。物語の重要な場面のかなりの部分が学会や学者の講演会に設定されているが、それが騒々しく、ドラマに満ちていること。野次や「帰れコール」はあたりまえで、殴り合いにまで発展しそうな勢いで、話の最後には翼竜まで登場する(笑)

学者になって年を取ってから読むと、そんなくだらないことしか気にならないものだ。この本を、子供の時に読んでおいて、本当によかった。過ぎた時間は絶対に帰ってこないというのは、読書においてしみじみと感じている。