『まんが 医学の歴史』

事情があって、医学書院から茨木保『まんが 医学の歴史』をいただいたので、喜んで目を通す。欠点も長所も、だいたい予想した通りだった。

欠点はたくさんあるが、一番大きなものは、やはり、マンガであることと関係ある。偉大な人物と劇的な事件を大げさに描くという、この手のマンガが陥りがちな傾向が強く全面に出ている。そのせいで、ストーリーが大きく単純化・歪曲されている。たとえば冒頭は、まず登場した偉大なヒポクラテスのあと、傲岸で教条的なガレノスが現れて、カトリック教会と結びついて1500年間西洋医学を支配し、それを死体スプラッター狂のヴェサリウスが打ち破るというストーリーになっている。この、根本的な過ちが多く、つくり話としてもにわかには信じられないほど安っぽい話が、いかにもマンガ風にどぎつく描かれていている。(医学を支配するガレノスの背景には悪魔の黒い影が描かれている。)このような話を、読者たちは本気で信じるのだろうか。いや、そもそも、著者が本気で信じているのだろうか。

長所もとても多いと思う。まず、そのなかで最大の長所は、やはり、人気がある媒体であるマンガであるということだと思う(笑)。絵は、うまいほうだと思う。人物は、あまり似ていないけれども、これは仕方がない。歴史的なことがらは、背景に丁寧に描きこんでいるし、わりと正確だと思う。四体液説など、いろいろな概念や理論も、丁寧に図解を使って説明している。描かれている史実そのものは、正しいことが多い。

これを、学生たちや医者たちが読んでいることは、プロの医学史研究者として、意識しておいたほうがいいかもしれない。