精神医学の国際化

20世紀の医学の歴史の一つの柱は国際化であり、WHOなどの国際的な機関が重要なプレイヤーになってきたことである。その「国際化」という現象を、計量的な方法で測って、新しい視座を出した論文である。文献は、Burnham, John C., “Transnational History of Medicine after 1950: Framing and Interrogation from Psychiatric Journals”, Medical History, 55(2011), 3-26.

科学者は、商人と同じように、境界を越えて思考を運ぶ行為者である。(ギャリソン)そこから出発して、国際的な情報と認識の伝達・経済という概念装置を20世紀の精神医学につかった研究である。具体的な資料は、その分野の学術論文の注で引用されている文献の言語を数えて、その時系列の変化を見るという手法である。

医学の国際化について、最初はドイツが、第二次世界大戦後にはアメリカが、共通の参照枠になったという印象を持つが、これは粗い意味でしか正しくない。たとえば、第一次世界大戦が終わったあとに、アメリカの精神医学はいったん「地方化」して、自国の文献を参照する頻度が上がる。第二次世界大戦までは、ドイツ、フランス、英語圏という形の局地的な「学術知の経済圏」が成立することになる。第二次大戦以降、英語がリングア・フランカになったが、これはアメリカ化というよりも、それまでのブロック経済圏の学者たちが、英語を用いることを通じて影響力を高めたという性格が強い。