『本邦に於ける地方病の分布』

大正期から日本の各地で「地方病」の調査が行われ、対策が立てられた。ここで扱われているのはクル病(骨軟化症)、象皮病(フィラリア)、マラリア、日本住血吸虫症、ワイル氏病、肺臓ジストマ病と肝臓ジストマ病、それにツツガムシ病などである。この調査と対策から明らかになった病気の様子を内務省衛生局が全国単位でまとめた書物である。地方の衛生課が行ったもの、中央政府が行ったもの、それから医師会などが行ったものもあるようである。この書物自体も価値が高いが、そこからそれぞれの地方で活発に進行していた調査と対策の様子をうかがうことができ、リサーチの対象を定めることができるという意味で、とても貴重な記録になっている。戦後の滋賀県のマラリア対策については、田中誠二の優れた仕事があるが、これは、太平洋戦争で中断されたが、大正期から継続して行われていた疾病対策の一環であるように見えてきた。群馬や栃木などにおいても、対策が広まって大正期にマラリアが激減している。これらの、大正期からの地方の疾病対策が、いろいろな意味で重要であったことを教えてくれる書物である。

報告書を書いた内藤和行も気づいているが、「地方病」という名称と、それに何を含めるかということが面白い問題である。全国はもとより、それぞれの府県内においても、その病気が見られる土地とみられない土地が分かれているという意味で「地方病」と言っているのだろう。それと同時に、開発が進んでいない地域ということだと思う。クル病は山間僻地の病気であるし、マラリアやワイル氏病は、低地の湿地で沼などのために開発が進んでいない地域であろう。

私がときどきバードウォッチングをする湿地のあたりは、以前は一面に湿地や沼で、鳥もずっとたくさんいたと聞いていたが、そこは象皮病やワイル氏病が猖獗していた土地であった。