ホムンクルスの歴史


William Newman, Promethean Ambitions より
『プロメテウスの野心』における、ホムンクルスを扱った章を読む。中心は、パラケルススとその追随者が、錬金術の究極の目標として人造人間(ホムンクルス)をつくることを掲げた状況の分析である。その時代に先立つ思想を、ギリシア科学、3-4世紀のペルシアの物語、同時期の偽プラトンの「牛の書」と呼ばれるレシピ書、ユダヤのゴーレムの主題などを通じて紹介し、ホムンクルス説への16.17世紀の反論も紹介している。

アリストテレスに代表される、精子が生物の発生の基本であり、女性は血液(場合によっては経血)によってそれを養うという、男女の間に不均衡があり男性原理を重要視する生殖のモデルが、人造人間の作成の系譜の背後に存在する。ペルシアの物語である「サールマーンとアブサルの物語」においても、女性に触れることをしない王の精子からサールマーン王子が作られ、「牛の書」においても、精子(テキストでは尿となっている)を用いて、それに血液を与えて人造人間が作られる。パラケルススの死後30年以上たってから出版された『事物の本質について』で紹介されている、フラスコの中で作られるホムンクルスにおいても、<精子を血で養う>という原理は変わらない。一方で、女性の経血をランビキで処理すると、その毒のまなざしでほかの生き物を殺すバジリスクが作られるという発想は、男尊女卑というより、女性嫌悪に近いものすら感じさせる。

この女性嫌悪と関係が深いことだけれども、著者は、パラケルススが性的な障害を持っていたことを重く見ている。同時代の人々も、パラケルススは女性と交わったことがなかったとか、幼児に去勢されたという記述を残しているし、遺骨を調査すると、女性的な骨格であるとのこと。パラケルスス自身の性は、通常のものではなかったことはほぼ確実であるとのこと。この特徴を、彼のホムンクルスについての複雑で両義的な思想の中に読み込もうとすることについては、個々の論点というよりも、学問上の態度として異論があることかもしれない。