山本俊一『増補 日本らい史』

山本俊一『増補 日本らい史』(東京:東京大学出版会、1993)

山本俊一は、もともとは東大医学部の教授で、医学者としての業績もきっと優れたものだろうと想像するが、医学史の世界では、この『日本らい史』と『日本コレラ史』(1982)という二冊の大著で著名な研究者である。どちらも、組織的に文献を収集し、それらから基本的な史実を抽出するという、ケレン味のない古典端正な歴史学の方法を用いて作られた書物である。

この書物はもちろん多くの限界を持つと聞いたし、実際、私が見ても、江戸時代の扱いが非常に薄いという印象を持つが、それにもかかわらず、医学史の研究者が座右に置くべき書物の一つであることは明らかで、恥ずかしいことながら、私は参照したことはあったが、手元に持っていなかった。ハンセン病の歴史を研究していないからという理由はもちろんあったが、これは考えが浅かった。しばらく前に、清瀬のハンセン病資料館・多磨全生園に行く機会があり、ハンセン病対策を一つの参照ポイントにしないと、いま調べている日本の精神医療の歴史の輪郭が鮮明に見えてこないという基本的なことに気づいていなかったからである。不明を恥じる。

同じことが、結核や脚気についても言えるだろう。後者については、医学と臨床を知っている医者が書いた医学史の中でも、特に傑出した業績を上げた山下政三の脚気三部作がある。幸い、精神病院における結核について論じる機会をいただいたから、本気を入れてリサーチして、他の病気と対照した時に精神医療がどうだったのか考える視点を織り込もう。