昭和の農村保健婦は医者と恋をするか

中道千鶴子「農村保健婦の実際活動」『医事公論』no.1531(1941), 11.29, 3664-6.

著者は保健婦のパイオニア。農村保健婦の仕事について、医者との協力が必要であることに触れて、「医者が協力しない場合は、仕事に良心的な保健婦であればあるほど実に苦しい立場に立つことになります。医師と看護婦の場合と同じく、予防医学で医師と保健婦も切っても切れぬ間柄であり、医師の仕事は実に男性的な仕事でありますが、保健婦の仕事もまた実に女性的な女性にふさわしいまた女性にしかできぬ美しい仕事でちょうど家庭の主婦のごとくデリケートな神経を必要とし、なくてはならぬ母性的な仕事。ですからもしも両者が理解しあい協力して行ったならどんなに素晴らしいよい仕事ができるでせうか。それは唯夢でせうか。」(3666)

これは、もちろん、保健婦の女性らしさを医師の男性らしさに対して強調する、教科書通りの性別役割分業論である。また、実際には医者と保健婦の協力がうまくいっていないことを示唆しているとも考えられる。

しかし、それだけではなくて、ここには、ロマンティックなイメージがないだろうか。「それは、ただ、ゆめでしょうか・・・」と読んでみると、そこには乙女のため息が聞こえる可能性があるだろう。現在の看護士(かつての看護婦・保健婦)たちは好まないステレオタイプだろうが、医師と恋をして結婚する看護婦が多かったのは事実であり、そのイメージが流布したのも事実である。