山口順子のハンセン病研究

山口順子「仮名垣魯文ハンセン病の啓蒙―『綴合於伝仮名書』の上演をめぐって」『メディア研究』26(2009), 23-44.
山口順子「後藤昌文・昌直父子と起廃病院の事績について」『特集/第一回交流集会記録 ハンセン病市民学会2005』1[2005]、112-122.

前者は、仮名垣魯文を中心にした、魅力的なハンセン病の歴史で、二つの筋を織りあわせるような形になっている。一つは、魯文が描いた、ハンセン病患者が登場する事件をフィクション化して歌舞伎に仕立てた作品の分析。これは、「毒婦お伝」として有名な事件の、お伝の夫にあたる人物が患者になる。もう一つは、魯文が友人であり、当時有名であった(あるいは魯文が有名にしていた)ハンセン病の治療医の後藤昌文の分析である。1870年代から80年代にかけての、ハンセン病にまつわる暗いイメージと並行して、メディアと広告を用いてハンセン病治療の光をもたらそうとした動きがとても面白い。後者は、後藤父子についての情報を整理して充実させたもので、とても役にたつ。国家が隔離収容に乗り出す前のハンセン病の世界の動きについて、大きなヒントになるだろう。