瀬戸内海の小島の精神病調査

萩尾了・長尾茂「近親婚地域の精神的遺伝負荷の研究 第一回兵庫県家島群島の調査(1)」『精神神経学雑誌』47(1943), 529-536.
著者は厚生科学研究所。これは、精神的遺伝負荷の地域的差異に関する研究の第一着手として、昭和17年7月に施行した調査成果の一部である。兵庫県衛生課と家島町役場の配慮を得た。猛暑の中を佐瀬仁、東大医学部学生の馬場、西川、日野の協力を得た。
家島群島の中の坊勢島という一小島の調査、周囲は一里、農地なく、住民は漁業。古来、他の島との血の交流はほとんど行われず、風習も異なる。他の島民はこの島を一種侮蔑的に見て、この島民は他の島民に対し猜疑と敵意を抱きやすい。

昭和17年7月、人口は1775人、島外在住者は124人、精神分裂病は4名、躁鬱は1名、癲癇は11名、病的人格は3名、精神薄弱は8名。精神分裂病は、定型的に痴呆で終わるものでhなく一時的なものであり、この数は少ないほうと考えるべきである。一方、癲癇は多く、精神薄弱も多い。学童の知能検査が著しく劣っていることも精神薄弱が多いことと関係がある。近親婚は、またいとこ婚を含めて20%で多い。ここから劣性遺伝病の発生確率が大きいことが予想される。これまで九州の孤立村について調査されたが、これらの村でも分裂病は多くないし、同じことが坊勢島についても言える。

孤立した集落における血族結婚によって精神異常が多く発生するというという考えは、私が小さい頃にも聞いた記憶があるし、横溝正史の金田一ものなどのような一連の大衆小説でもその主題を感じることがある。しかし、この主題は、この段階では確定したことではない。 これ以外にも戦後にわたって多くの調査が行われているのだろうけれども、どのようにして「孤立した集落の精神異常」の主題は、日本の言説のメインストリームに乗ったのだろうか。