ナイチンゲール『病院覚書き』

『病院覚書き』
ナイチンゲールの主要な著作の一つ『病院覚書き』を読む。日本語の三巻本の著作集には翻訳されているのだけれども、これは抄訳であることに加えて、翻訳されている部分の重要な図版も省略されているので、あまり使えない。オリジナルは、Googlebooks で問題なく手に入る。

街中の土地では、石炭の煙その他の公害によって汚染されている場所で三階四階と建物を高くして病人を収容せずに、換気や採光を確保し、また広い面積に病人を分散させて収容する方式をとると―これらは今や速やかな回復にとって必須であるとされている―病院にとってはあまりにも高すぎる出費となる。 / 田舎の町では、あるいはそこまでいかなくても、もう少し大きい工業や商業の街では、開放的な田園ないし郊外の清浄な空気の中に病院を建てることはさほどむずかしくない。215-6

病因を[ロンドンの都心から田舎に]移せば医学教育のためにも利があろう。ロンドンでの一貫しない講義めぐりや病院実習にとってかわって、静かで勉強にむいた大学環境が得られるはずである。かくして、教育は純然たる指導の場を手にできよう。 220

病院の壁になぜしっくいがよくないか
[しっくいには]気孔が多数あり、病人の発散物をそこから吸い込んでしまうのである。しっくい壁が出来上がったばかりだとすると、病室中の空気をしっくいが掃除してしまうようなかたちになる。が、やがてその壁は不潔物の飽和状態に達する。時には細かい植物がその上に現れるが、かき落として顕微鏡でそれと認めうるし、化学的にも検出できる植物である。病室の壁と天井がここまで汚染されると、そこにはいわゆる病院病が非常に発生しやすい。