「お産革命」

著者は朝日新聞の記者で、ハンセン病の歴史や患者本位の病院改革の提唱など、医療系の著作がとても多い。この書物は、もともとは1979年に出版された書物を文庫化したものである。恥ずかしい話、私が日本の戦後の出産の歴史について知っていることは、このジャーナリストが30年前に書いた本だけに頼っている。出産の歴史というのは、女性史の主題として鉄板だから、もっとよい概説的な研究書も出ているだろうとは思うけれども、ちょっと探しただけではよく分からない。「これは!」という良い本を知っている方は、教えてください。

著者が「お産革命」と呼ぶもののコアは、1960年代の日本で、出産する場が、自宅から施設(病院・診療所、助産施設)に移動したことである。1950年の日本では、厚生省の調べによると、すべての分娩の95%は産婦の自宅で起きていた。それが60年には50%になり、70年には5%になった。たった20年間で、自宅出産が95%を占めていたレジームから、施設出産が95%を占めるレジームへの急激な転換が起きたのである。この急激な変化に対応して、分娩の就寝となる医療職も変化する。一言でいうと、助産婦が短い黄金時代を迎えた後に急速に没落するのである。1950年の段階では、85-90%が助産婦によって出産されていた。医師も助産婦もいない、「家族分娩」と呼ばれるものは、都市部では0.3-0.5%という無視し得る数であり、郡部においても5-6%という低い数字であった。第一次ベビーブームを牽引したのは助産婦たちであり、1949年には実働7万4000人と最大の数値を記録した。このほとんどが、独立の開業者をいとなんでいた助産婦であった。しかし、その後、独立の助産婦は姿を消していき、診療所での出産も放棄され、最終的には出産は大病院に集中していく。

ジャーナリストの仕事だから、もちろん学者とは違う見方・書き方をしている。しかし、「お産革命」と呼んでよいものの全体像を広く捉えた本格的な仕事だと私は思っている。