江戸川乱歩『パノラマ島綺譚』

江戸川乱歩『パノラマ島綺譚』角川ホラー文庫江戸川乱歩ベストセレクション6

「パノラマ島綺譚」と「柘榴」という二つの中編を収めている。前者は、1926年から27年にかけて雑誌『新青年』に連載された作品。ミステリーとしては、あたかも双子のようによく似た人物が入れ替わるというおそらく簡単な構成だと思うけれども、犯人=主人公が、白昼夢の中で妄想的に描いていた「パノラマ島」を、巨額の資金を投資して実現する部分の記述が圧巻である。主人公が妄想に取りつかれているだけではなく、乱歩自身も、この世界を描きつくすことに囚われているような雰囲気が漂う。

この、<妄想を実現する>という基本テーマは、芝居・からくり・映画などが象徴するような、リアリティ・エフェクトの娯楽と深い関係があるのだろう。これが、実際の精神病患者の妄想と、どのような関係を持ったのかは、とても難しいリサーチけれども、手がかりがないわけではないと思っている。