『トップ・ハット』(1935)と反騒音同盟(1933)

飛行機の中の映画の中で「クラシック」という分類があって、その中にチャップリンなどと並んでフレッド・アステアジンジャー・ロジャースの『トップ・ハット』(1935)があった。もちろんダンスが中心の白黒のロマンチック・コメディで、デートにぴったりの映画だった。ウッディ・アレンの『カイロの紫のバラ』でも言及されている作品で、昔を懐かしみながら観ていたら、冒頭にちょっと興味が深い場面があった。ロンドンにおける静寂の要求の問題である。「絶対静寂」が規則になっているロンドンのホテルの談話室で、アステアが咳払いをしては紳士たちに睨まれるという場面である。この「くすぐり」の場面は、きっと、1933年に発足した Anti-Noise League に関連があるのだと思う。20世紀の初頭に誕生し、1930年に国際会議が開かれた精神衛生運動の一環として、大都市の騒音問題が取り上げられていた時期であった。

また、精神衛生が批判した騒音の対象のなかに、自動車、バス、鉄道、ラジオ、ラウドスピーカーなどとならんで、ほぼ間違いなく映画が存在したというような事情もあって、映画業界としては、この運動を意識せざるをえなかったということがあったのかと想像している。ちなみに、そのシーンの締めくくりは、咳払いをしては睨まれていたアステアが「絶対静粛室」から出ていくときに、ステップを踏んで派手にタップを鳴らして紳士たちに報復するというカットになっている。

ちなみに、1933年のBMJに Anti-Noise League の呼びかけがなされている。これも面白いけれども、同じページに掲載されている、蜘蛛の毒の研究もすごい。
http://1.usa.gov/GNRo5W