内村祐之『精神医学者の滴想』(1947; 再刊 東京:中公文庫、1984)
内村が昭和22年に刊行した。一般の人々や医学生のために専門に関することがらを書いたものが少したまったので一書に纏めたものである。「序」によれば、通俗的なものから半ば学術論文のようなものもあって、硬軟が一様ではないが、一貫して真面目に題目に向かったつもりであり、自分の専門や医学に対する自分の立場、さらには人生に対する自分の立場をはっきりと示し得たと思う者も一、二に止まらないと記している。狂気と天才、脳、精神病室における患者による詩作、精神鑑定、ドイツの知己の学者たちの回想、父内村鑑三のこと、精神病の遺伝のこと、優生法の過去と将来のことなどが記されている。
まず、このリストだけでも、日本の精神医学が発展するときに、社会の中でどのような問題が配置されていたのかという地図を示している。内村自身は脳神経学を学んだにもかかわらず、ここでは脳への注目はごく小さい。犯罪が占める役割もかならずしも大きくない。そして、やはり優生学と遺伝が大きくなっている。