アイヌ民族の差別講義事件とその知的系譜

植木哲也「植民学講座のアイヌ民族研究(1)―差別講義事件と植民学講座」『環太平洋・アイヌ文化研究』8(2010), 1-16.
1977年に北海道大学経済学部で起きた当時の学部長であった林善茂による差別発言を素材にして、この差別発言がどのような知的系譜の中で生まれたのかを辿る構想の論文であろう。(連作論文の1号しか読んでいないので、これから先の展開は分からないが。)この差別発言事件は、「北海道経済史」の講義の初回に、「北海道経済史は日本人を主体にした開拓使であり、アイヌの歴史は切り捨てる」と言い放ち、その後も、学生を笑わせるための冗談としてアイヌ民族の身体的特徴を強調し、アイヌ女性を蔑視した発言を行った。学生が、アイヌ解放同盟の代表であった結城庄司に相談したところ、結城は林の講義に乗り込んで発言の真意を問いただしたところ、林は回答を避けた。その後、林に対する学生の批判が高まり、ついに、7月9日に林の講義のあと、抗議した学生が教室を内側から施錠して林に自己批判を求めたところ、大学側の要請で、まず医師が、次には警官隊が教室内に入り、林を救出した。その後の学生と大学側の交渉は、最終的には林が自己批判することでひとまずの決着を見た。しかし、この事件で問われなかったのは、林が担当した北海道経済史という学問が、北海道大学の形成の中で持ってきた役割であった。