『テルマエ・ロマエ』

話題の映画『テルマエ・ロマエ』を観る。

古代ローマの技師が現代の日本にタイムトリップして、銭湯、温泉、バス・トイレの技術をローマ帝国に移転する、科学技術と生活文化のコメディ映画。ローマの有名な公衆浴場、ハドリアヌス帝の個人浴場、そして軍隊が傷を治す治療浴場などが取り上げられている。笑いとギャグのセンスは、『ひょうきん族』に似ていて、バカバカしく楽しい映画である。ローマの技師を演じた阿部寛も、バス・トイレの会社で働く温泉旅館の娘を演じた上戸彩も、とてもいい。特に上戸彩は、演技がうまいというわけではないと思うけれども、いつも不思議な説得力がある。

話の中心は温泉だけれども、それとセットでトイレのテクノロジーが取り上げられていた。便座が自動的に温くなる技術、音楽が流れる技術、そしていわゆるウオッシュレットを経験した阿部寛が、それを古代ローマに技術移転して、皇帝のトイレに奴隷を何人も配して、便座を温めたり、音楽を演奏させたり、皇帝の肛門を洗ったりするという、バカバカしくて楽しい話である。しかし、日本が自国のトイレ文化を誇りにする日が来るというのは、医学史の研究者ならだれでも感慨を覚えるだろう。西洋人のような生活を目標にしていた明治以降の日本にとって、日本の便所というのは、特別な羞恥の対象だった。水洗便所を流す下水の発達が相対的に遅れた日本においては、住宅がどんなに西洋風になっても、便所は汲み取り式であることは当たり前であった。衛生学者で大坂の公衆衛生改革で名高い藤原九十郎は、1920年代だったと思うけれども、これを汲み取り便所が近代住宅のど真ん中に蟠踞(ばんきょ)していると表現した。日本の便所は、近代日本が抱える不潔と後進性と感染症の象徴だった。それが、ローマ帝国から来た技師に衝撃を与えるような高い技術として扱われる映画の素材になったというのは、「昭和は遠くなりにけり」だなあ。