押野武志「破砕される身体」

押野武志「モダニズム文学と『破砕される身体』-江戸川乱歩葉山嘉樹宮沢賢治」中山昭彦・吉田司雄編著『機械=身体のポリティーク』(東京:青弓社、2006), 19-45.
乱歩、葉山嘉樹、賢治の三つの文学作品に共通する「破砕される身体」という主題を、それぞれの文学作品の文脈に即して議論し、そこから「ファシズムの身体」を議論しようとする仕掛けの論文である。江戸川乱歩『パノラマ島奇譚』(1926)では、パノラマ島を作り上げた主人公は、打ち上げ花火でその身体が粉微塵に砕かれて空から降り注ぐという最期を迎える。葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」では、労働者が破砕機の中に巻き込まれてセメントとなる。賢治の「クスコーブドリの伝記」では、主人公のブドリは火山を爆発させる仕事をひきうける。これはそれぞれ、機械のロマンティシズム、労働機械と人間の商品化、供犠と不死の身体という主題をめぐりながら、どれもファシズムの身体に結びついている。ファシズムの身体は、それが玉砕し散華する身体であり、そのイメージとこれらの作品は深く結び付いている。私のまとめかたがうまくないけれども、実際に読むと、表現はもっと洗練されていて、優れた議論である。