北一輝『霊告日記』

北一輝『霊告日記』松本健一編(東京:第三文明社、1987)
精神医学の歴史を研究しているとか偉そうなことを言いながら、北一輝『霊告日記』という超重要な資料の存在を知らなかったのは世界中で私だけだろう。自分の無知を心から恥じる。これは、北一輝が昭和4年4月から昭和11年2月末まで書き残していた、自分と妻すず子が体感した日々の霊感的予言や、見た夢の記録である。法華経を読経して「神がかり状態」になって書き記した部分と、自分や妻がどのような夢を見たかという記述がある。後者の実例をいくつか挙げると、「某妻女とうとう癩病になって顔倍大となり、汁だらだら流れ居る夢」(妻の夢S10.05.04) 「治療のために声が出ずなって、父さん電話もかけられず、人にも会えぬようになった。おいおい泣き居る夢」(妻 S9.9.19) などである。政治史のうえで重要な人物がつけていた夢日記であるから、歴史学者たちが、夢や霊告の背後にある現実の世界との対応などを特定しようと夢中になるのは、もちろん正当な読み方の一つであるが、それと同時に、重要なことを、夢と霊告の形で経験し、記録し、一部の人に見せていたということ自体が、夢や超常知覚を用いたコミュニケーションという視点において重要である。この資料は、精神病の症例誌の分析をサイドから支える資料として、本気で読もう。