末木文美士『日本宗教史』(東京:岩波新書、2006)
日本の仏教が江戸期に「葬式仏教化」したことの反面である人口学・プロト生権力の形成について、新書からメモした。
日本でもヨーロッパでも、近世や初期近代の時代に入ると、宗教組織が人間の生死を公的に記録する性格を強めるようになる。日本においては、キリシタン禁制に端を発して作られた檀家制度がこれにあたる。すべての国民を家単位でどこかの寺院の檀家として登録し、キリシタンではないことを証明させる制度である。これにともなって、婚姻や旅行の時には、寺院が発行する寺請証文が必要であった。寺院が年に一回改定する宗門改帳は、もちろんその名が示すようにキリシタン禁制のために作られる記録であったが、人の出生・死亡・結婚・移動などを記録する、戸籍としての役割を担う行政文書となった。近世の行政は仏教と寺院・僧侶の力を借りなければ実施されなかったのであり、近世の仏教は行政や政治に屈服して人々の戸籍を管理する「葬式仏教」になったのである。