寺内大吉『化城の昭和史―二・二六事件への道と日蓮主義者』(東京:中公文庫、1996)
寺内大吉という人物は、私にとってはTBSの番組「キックボクシング」の解説者であった。キックボクシングは、凶器、流血、乱闘といったことが日常茶飯事のプロレスに較べたらはるかに上品な格闘技のショーであり、お堅い中産階級でも一家で揃ってTVを観ることがなんとか可能であった。そのキックボクシングで、ベレー帽をかぶって解説しながら採点していたのが寺内大吉である。当時からこの人は実は物書きだと聞いていたが、二・二六事件と戦前の日蓮主義についての大きな著作を書いているとは思わなかった。
私は初学者であるから、この書物は高級すぎた。人物相関図が複雑で、複数の土地や組織でいろいろな事件が起きるありさまを「日蓮宗」を軸にして、歴史小説風・人物誌的に描くという語り口にうまくなじめずに、この本をうまく理解できなかったような気がする。<満州国建国でも、北一輝の霊感日記でも、死のう団でも、二・二六事件でも、日蓮宗が重要であった>という程度の浅い理解しかできなかった。つまり、日蓮宗の基礎が分かっていないということ、この時代の陸軍の基礎が分かっていないということだろうな。