マラリア蚊はスカーレット・オハラを刺したか?


Mann, Charles C., 1493: Uncovering the New World Columbus Created (New York: Alfred Knopf, 2011)
優れた科学史ジャーナリストのチャールズ・マンは、コロンブスによるアメリカ「発見」直前の世界を描いた傑作『1491』を書いて高い評価を受け、その続編である『1493』も出した。『1491』もそうであったが、これも世界システム論とクロスビーを織りあわせた話で、経済と生態系と病気の視点で世界史を観る一般書である。非常に感心したのが、主題として取り上げる感染症の選択の話である。アメリカ大陸の原住民の殲滅の話をするときには、ふつう天然痘に代表される急性感染症の話をすることが多いし、私もそうしている。しかし、この本ではマラリアを取り上げている。マラリアのほうが、アフリカとヨーロッパという広がりを持っていること、また、奴隷制と大農場という社会の経済的な根幹の形成を論じることができるからである。新大陸にマラリアが導入されると(そのことが新発見のコロンブスの手紙に書いてあるそうだ)、マラリアに対して抵抗力を持っていない人々が住むことが難しくなり、抵抗力を持っているアフリカから運ばれた奴隷に頼らなければならない。マラリアを媒介する蚊は暑い気候が好きだから、熱帯・亜熱帯地方にはアフリカから移入された奴隷を用いた大プランテーションに基づいた社会が作られて、それから南北戦争にいたるという流れの話になる。この話自体は私も記憶にあったけれども、こうして読んでみると、確かに病気の歴史の学部生向けのネタとしていい素材だなと思う。来年から学部1・2年生向けのセミナーで病気の歴史を提供することにしているから、そこではこの話を提供してみよう。

画像は<タラ>を背景にして柵に腰掛けるヴィヴィアン・リー演じるスカーレット・オハラ。風通しが良い高台に作られ、蚊が湧く湿地や水たまりから離れているお屋敷が南部の屋敷のテンプレートという話である。