チャールズ・シンガー『解剖・生理学小史』



チャールズ・シンガー『解剖・生理学小史』西村顕治・川名悦郎訳(東京:白揚社、1983)
原著はイギリスの医学史の開拓者の一人であったシンガーが1923-24年に行った講演をもとにして1927年に出版した書物である。1958年にほぼ同じものが再版されている。日本語に訳されたのが1983年だから、原著の講演から60年たっている。83年の欧米の医学史研究の事情をみると、多分その段階でこの書物はすでに「古い書物」になっていたと思う。「緒言」を書いているのはかつて東大科学史の教員であった木村陽二郎で、それから察するに木村が西村に翻訳を勧めたようである。自分が卒業した学科の先生を批判するようで少し気が引けるが、これは日本の医学史にとってタイムリーな翻訳ではなかったと思う。日本の医学史研究はいつごろからか国際的に孤立して、鎖国的な道に入っていった時代があったと思うが、その悪しき面をみたような気がする。

ついでにいうと、本書43ページの四体液・四元素説の図式は間違っていて、血液と胆汁の位置が逆でなければならない。この書物の原著は持っていないから誰がどう間違えたのかわからないけれども、シンガー/アンダーウッドの『医学の歴史』ではもちろん正しく表記している。

嫌味なようですが、画像を添付しました。