17世紀スペイン演劇からの医学史

Slater, John and Mar?a Luz L?pez Terrada, “Scenes of Mediation: Staging Medicine in the Spanish Interludes”, Soc Hist Med (2011) 24(2): 226-243.

近世スペインにおいて、短い演劇作品の「インタールード」における医者たちの分析。「インタールード」というのは、長い演劇作品の間に挟み込まれる短いコントで(日本の狂言のようなものかしら―といって、狂言なんて一度も観たことがないのですが)、このジャンルの作品に医療者や病気が非常に頻繁に描かれるという。周縁的な資料に見えるが、読んでみると、なるほど豊かな資料でその重要性に納得した。医者が同業者向けに書いたアカデミックな著作、人々向けに書いた実用的な著作では、起点は医者であり、医者が発した情報が記されている。しかし、劇作家という(通常は)非医師である人物によって書かれ、比較的広範囲の人々に向けて発せられたこの作品群は、人々が医療に対して(「臨床以外の場所で」)持った知覚と期待の枠組みを教えてくれる。もともと笑劇であるから、医療者の貪欲や無能のありさまが滑稽に描かれることが多い。ラテン語も笑い草になっているし、医師たちのガレノス、ヒポクラテス、アヴィセンナといった古代の権威好きも遠慮仮借なく嘲弄されている。モリエール『病は気から』から、医療や患者をコミカルに扱った笑いの部分を短く切ったものを考えるとそれほど間違っていない。近世スペインでは医療への関心は高まらなかったとされているが、このジャンルの資料を分析すると、そこでの医療への言及は増加している。