横溝正史『獄門島』と優生学


横溝正史『獄門島』は、昭和22-23年に雑誌『宝島』に連載された探偵小説で、瀬戸内海の孤島で起きた連続殺人事件を金田一耕介が解決する人気作品である。

瀬戸内海の孤島は、日本の優生学と精神医学にとって縁が深い主題である。1940年の国民優生法が制定され、精神疾患の遺伝を優生学によって食い止める法制度が作られたが、精神医学者たちの間では、精神疾患の遺伝を人口の規模で精査しなければならないという意見があった。これをうけた調査が行われて、昭和15年には東大の内村祐之が八丈島・三宅島の精神病調査を行い、九大の下田光造が五家荘の精神病調査を行った。これと同じ流れで、昭和17年の7月に家島群島の坊勢島で、島の住民の精神病調査が行われ、昭和18年にその成果が『精神神経学雑誌』に発表されている。著者は、厚生科学研究所の荻野了と長尾茂とある。坊勢島は「古来、他島との血の交流はほとんど行われず、風習も異なる。従って他島民は一種侮蔑的にこの島を視て、この島民は他島に対して猜疑と敵意を抱きやすい」とされている。単なる遺伝だけでなく、近親婚が先進疾患の負荷を高めていないだろうかと関心は内村の調査からずっと一貫した持ち続けられており、坊勢島の調査でも、近親婚は重点的に調査されたが、その結果、あまり精神疾患の負荷を上げていないことがわかった。

横溝正史が「獄門島」のモデルを坊勢島に取ったというわけではないだろうが、坊勢島と「獄門島」のイメージが重なる部分も多い。横溝の設定によれば、獄門島は、かつては海賊の根城であり、近世には流刑地であったとされ、この島においては他の島々と縁組しないので、島全体が、血がつながった一つの大家族のようなものとされている。「気ちがい」という言葉が重要な謎を解く鍵になるが、「島の人々はみな気ちがいである」というような金田一の台詞もある。その島の中でも、特に精神疾患が重責しているのが、網元の「本鬼頭」の家で、図に示したように、精神疾患の両親から精神疾患の三人娘が生まれていることになっている。三人姉妹の母のお小夜なる人物は、島の外の出身であるが、これはご祈祷を行う能力を持つ「草人」「かんかんたたき」の筋のもので、こちらも長い期間にわたって血の交流がなかった筋に属している人物である。

このように血縁的に孤立した瀬戸内海の島において、別の島の男性と結婚して「島から島へと / お嫁に行く」のが、小柳ルミ子の「瀬戸の花嫁」であることを、もう一度言っておきます(笑)

ためしに MS パブリッシャーで作図してみた。PPTより少しきれいなのかもしれない。