フィリピンの近代化と民間習俗との闘い

Reyes, Raquel A.G., “Sex, Masturbation and Foetal Death: Filipino Physicians and Medical Mythology in the Late Nineteenth Century”, Social History of Medicine, 22, no.1, 2009: 45-60.
西洋医学の導入にともなって、近代医学の視点で当地の民間習俗が解釈されて迷信と判断され、その廃絶が叫ばれるという動きがある。日本の習俗では、流行病のときにお札をもらうことや、「狐憑き」をめぐる習慣などが、激しく攻撃された迷信の代表であった。

この論文は、フィリピン出身の医師で、19世紀末にパリで医学を学んだデ・タベラ兄弟のキャリアと著作に取材したものである。彼らは西洋医学を学んで、フィリピンの性交、生殖、子育てについての民間習俗を集めて批判するわけだが、そのときに、彼らの敵は二重であったということに気をつけなければならない。つまり、それらを信じる無教養な民衆と、その習慣を組織された文化の中に埋め込んでいくスペインが設立した教会であった。もうひとつが、近代化をめざす医師たちの改革運動が、生殖にかかわる迷信をとりあげて攻撃したことである。日本では日本産育習俗資料集成として知られる資料があるけれども、時間をみつけて、フィリピンの習俗と比べて眺めてみようかと思う。