便利な医学史年表

 

三木栄『体系・世界医学史』(1972; 東京:日本図書センター2014

 

三木栄は朝鮮の医学史の基本的なレファレンスである『朝鮮医学史及疾病史』を著した偉大な医学史家である。医師であると同時に、歴史的な事実をこつこつと集積して一流のレファレンスをつくるというタイプの医学史家の一人であった。三木が1970年代に著した世界の医学史についてのレファレンスは、以前から欲しいと思っていたが、復刻されたのですぐに注文した。一番重要な部分は世界医学史の年表で、紀元前3500年から1970年までの世界の医学における出来事が地域ごとにわけて年表になっている。全体で300ページほどにのぼり、一年に20以上もの出来事が記されている年も珍しくないから、かなり詳細な年表である。地域の分け方は年代によって違うが、私が多用するヨーロッパ・アメリカと日本の比較という枠組みは、太古の時代を除いて常に立てられている。そのため、日本における医学史上の事件を論じるときに、同時期のヨーロッパにおける医学史上の事件と連関させるということが簡単にできる。イギリスやヨーロッパの医学史研究においては年表という文化が発展しておらず、まれに作られても数ページの著しく簡単なものなので、三木の書物は非常に便利なレファレンスとなる。たとえば、「日本では1743年に幕府が薬種栽培を奨励し、1757年には平賀源内田村元雄が湯島で薬品会を開き、1764年に朝鮮人参の増産を背景に「人参座」が設かれたころ、ヨーロッパにおいても、リンネの『自然の体系』(1735)や、1749年のビュフォンの『自然史全集』の刊行の開始、1751年のハラーの『植物誌』の刊行などが行われた」というような、和洋に通じた博覧強記の鑑のような文章も、三木の年表を見るだけで書けてしまう(笑)まあ、それは冗談だけど、この医学史の年表はこれから多用するのは間違いない。

 

問題があるとしたら、項目の選択基準の問題と、それぞれの項目の記述の正確さが、一度チェックしなければならないだろうなという印象は持つが、それは年表というのはどれでもそうだろう。