Pethes, Nicolas, “Telling Cases: Writing Against Genre in Medicine and Literature”, Literature and Medicine, vol.32, number 1, Spring 2014, 24-45.
同じく Medicine and Literature の症例特集から、近代ドイツの文学と症例についての論文。概念的に整理された議論で、悪く言えば図式的であるが、鮮明な論点となっている。1750年から1850年のドイツ文学は、医学の症例と4つの特徴を共有している。経験的な根拠を重んじること、一般的ではなく個別の観察であること、病理的な変異を問題にしていること、集団として扱えることである。
特に面白いのは3番目と4番目の点である。世紀末から20世紀になると、近現代の文学における主観性は病理的な自己なり人物なりの観察に基づいていることが明らかである。シュニッツラーやムジールを考えればよい。この形成に精神分析が重要な役割を果たしたことはもちろんだが、精神分析が始めたわけではなく、すでに形成されていた症例を通じた文学への影響があった。イギリスの Blackwood Magazine に連載された Samuel Warren なる筆名の著者の Passages from the Diary of a Late Physician も臨床的なリアリズムで有名になったし、これはE.A. Poe も取り上げているし、The Facts in the Case of M. Valdemar も類似である。Georg Büchner の Lenz も精神病患者の病気の進行を描いている(この作品は知らなかった)
集団としての特徴は、normal な規範に対して個人を数えることができるようになったことが重要である。近代医学は患者を集団として数える仕掛けの中で行われており、その素材が症例であった。この点においては、フーコーの古典的な論述があるから、もう一回読んでおこう。