Dacome, Lucia, “Women, Wax and Anatomy in the ‘Century of Things’”, in Sandra Cavallo and David Gentilcore eds., Spaces, Objects and Identities in Early Modern Italian Medicine (Oxford: Blackwell Publishing, 2008), 50-78.
Vivo, Filippo de., “Pharmacies as Centres of Communication in Early Modern Venice”, in Sandra Cavallo and David Gentilcore eds., Spaces, Objects and Identities in Early Modern Italian Medicine (Oxford: Blackwell Publishing, 2008), 33-49.
18世紀ボローニャで活躍した女性の解剖模型製作者を取り上げた論文と、17世紀のヴェニスにおける薬局が、海外貿易で運ばれた商品を扱うからという理由で情報流通の拠点になったという二点の面白い論文を読む。イタリアの医学史研究はさまがわりして、特に初期近代の研究は急速に社会史と文化史への豊かな転換を遂げただけでなく、それを英語で読めるようになったことを実感する。
アナ・モランディはしばらく前に大きな伝記が出たが読んでいないから、はじめて本格的なものを読む。基本はボローニャ大学の解剖学教授の妻で、夫の死後に解剖学の講義をしたり蝋で模型を作製したりして著名になった人物である。この論文は蝋という素材に注目して、それが「ソフトな」質感を持ち、私的な空間でのエレガンスと関係あること、公開の解剖劇場のバロックな高度な形式とは対照的であったことを強調している。
http://en.wikipedia.org/wiki/Anna_Morandi_Manzolini
一方、ヴェニスの薬局の論文は、ハーバーマスの「コーヒーハウス」の前身を17世紀の薬局に求めたものである。情報が流通する場所は、同時によからぬ情報が別の場所に発信される場所でもあるから、市と教会(異端審問)は薬局にスパイを放っていたことも。
写真は Morandi が自作した脳を解剖する自画像。