David, Elizabeth, A Book of Mediterranean Food, foreword by Clarissa Dickson Wright (New York: New York Review Books, 2002).
お料理の素材として、卵がかなり好きだ。目玉焼き、ゆで卵、スクランブルド・エッグ、卵焼き、茶碗蒸しと、どれもとても好きなお料理である。その中でも、一番好きな卵料理を一つだけ選べと言われたら迷わずオムレツを上げる。オムレツは、上手な人が作るのを見ていても楽しい。ホテルの朝食でオムレツを焼いてもらう時には、そこにぼうっと佇んで、自分のオムレツの卵が流し込まれ、具が入れられ、焼かれて、ひっくり返されて、まだ柔らかい内側を包んだアツアツのオムレツが皿に盛られるのを見るという贅沢をさせてもらう。
私がオムレツを特に好きな理由は、エリザベス・デイヴィッド(Elizabeth David, 1913-1992)の本に素晴らしいオムレツの記述があるからである。デイヴィドは、1950年代から60年代に活躍した女性ライターで、イギリスにおける文化系料理本の著者の中で史上最高の書き手であるという評価もある。父親は政治家の名家で、イギリスのエリートの教育を受けた。何冊かの書物があり、イタリアやフランスの田舎の料理を食べに行くある種のフィールドワークを軸にしたものが多い。それに、文化的な記述がスマートに挟まれ、文体はクリスプにキープされている。そのオムレツの部分で1ページから2ページ程度のエッセイが二つ引かれている。一つは美味しいオムレツを作るための十二か条で、もう一つは、ガートルード・スタインがパリに住んでいたころの調理人について語り、その調理人がマチスにオムレツを作らず、かわりに目玉焼きを出して「マチスさんからきっとこの意味が分かるでしょう」と答えたというエピソードが紹介されている。
私が持っている「イラストや写真が一切ない料理本」の一冊。いま確認したら、ペンギン版が Kindle でも出ている。