今日も症例誌の処方を読む練習を少しした。同じ薬が繰り返し使われるから、すらすらと読める部分が多くなって、これなら練習しながら読み進めれば大丈夫だと自信を持つようになる。同じ薬が繰り返しと書いたが、これは王子脳病院がすべての患者に千篇一律で同じ薬を出していたことを意味しない。処方箋には書いてないが、体温表の中に書き込まれている治療の記録がある。マラリア発熱療法のためのマラリアの注射やインシュリン・ショック療法の注射などはそもそも処方箋には一言も書かれておらず、体温表にしか書いていない。また、その日の状況や症状などによって、その患者の処方箋に書いていない治療を行った場合も体温表に書かれている。つまり、体温表に書かれていた治療は、処方箋以外の治療ということになる。私は、この部分を勘違いしていて、数年前に書いた論文で、体温表に記入されている治療法だけが患者に与えられた薬であるという前提で話を進めたことがある。議論のコアにおいては間違っていないと思うが、その部分では、明らかに瑕疵がある議論をすでに出版してしまった。こんなことが予想できなかったのは、実に愚かしい勘違いだった。
今日は略称で用いられているP.S.の正体を突き止められないかと、いくつかの症例誌をまとめてみてみた。患者番号M0001~M0010の10人の患者の症例誌をみると、処方が残っているものが6人、処方と体温表の双方が欠けているものが4人である。処方が残っている6人の患者について、すべてにP.S.が処方されており、基本中の基本であったことがわかる。その6人の患者の診断は、早発性痴呆もあれば麻痺性痴呆もあり、ある診断に特殊に用いられる特効薬ではない。
そんなことを考えて、これまで体温表の薬を読んだ経験と合わせて考えると、このP.S.という略称は、「パンスコ」ではないかという仮説を立てることができる。この「パンスコ」という言葉は、体温表などに現れたことがあるので憶えていた。薬品名はブロム水素酸スコポラミンというものである。現在では「パンスコ」という商品は武田が作っているらしいが、私がもっている薬名一覧には「パンスコ」という商品名は掲載されておらず、ブロム水素酸スコポラミンの項目に、Roche の「パントポンスコポラミン」という商品名が掲げられている。これを「パンスコ」といい、多くの患者に与える基本的な薬として、処方箋ではP.S. と略したのだろうか。
仮説というのはだいたいそういうものだけど、本人としては見込みがある仮説のような気がするので(笑)、追跡調査しようと思いますが、何かアドヴァイスがありましたら教えてくださいませ。