『イミテーション・ゲーム』

飛行機の中で映画『イミテーション・ゲーム』を観る。BBCの『シャーロック』でブレイクしたベネティクト・カンバーバッチが、ケンブリッジ大の数学者で現代のコンピューター科学の礎を築いたアラン・テューリングを主演した映画。変人で同性愛者でマラソン・ランナーで、科学に異様な情熱を注ぎこんでナチス・ドイツの暗号を破る機械を完成させるという人生を生きた男を、カンバーバッチが素晴らしい演技で表現している傑作で、気持ちよく泣かせてもらった。脇役たちも素晴らしく、マイケル・グッド(スカーレット・ヨハンソンの『マッチポイント』)、チャールズ・ダンス(『エイリアン3』の医者役)、最近の007ものに出ているロイ・キニアーなど、見ごたえがある演技を堪能した。

時代は1930年代の末から50年代である。この時期のイギリスの同性愛者の歴史については、私は教科書的な知識しか持っていないが、その範囲でいうと、映画の描き方は非常に的確だと思う。非合法であったこと、人々はその許容と拒絶の中間にあったこと、そして、最も苦しんだのは当人であったこと。最後の点に関していうと、同性愛を、現在標準的な gay という言葉ではなく、もともとは医学用語で精神疾患の一つをさす言葉であった homosexual という言葉を使っていたのが印象的だった。この言葉が、かつての法律用語で犯罪を意味する sodomy にかわって、医学的な問題として19世紀末から20世紀の半ばにいたる重要な時代の同性愛概念を作ったのだということを実感した。