ソニア・シャー『人類50万年の闘い マラリア全史』夏野徹也訳(東京:太田出版、2015)
マラリアの歴史と現在についての書物を『週刊読書人』に書評した。個人的な話になるが、マラリアについての本を公の場で書評するのは初めてで、何か意味あることが書けるのかどうか不安だったけれども、英語圏の医学史の標準的な必読の書物や論文に書いてあることがベースになっていたので、わりとすらすらと書くことができた。(それもあって、長く書きすぎてしまいました。申し訳ありません!)
これは、欧米においては、医学と疾病の問題についての「新しい学際的なリテラシー」が拡大していることによるものだと思う。すなわち、ある疾患に関して、医学だけでなく、医学史、医療人類学、医療社会学などのような、医療の問題を人文社会科学系の学問の視点を導入して学際的に論じる研究成果が蓄積されていること、それをもとにして本書のような一般向けに書かれた書物の水準も高くなっているため、医学と医療の問題が総体的なものとして社会で共有されているのだとひしひしと感じる。日本においても、人文社会系の学者の世界ではそのような動きは始まっているので、この動きが発展してうまくマスコミや評論家と接続するようになると、医療についての学際的な視点が人々に共有されるのだろうと思っている。