Kohn, G. C. (2008). Encyclopedia of plague and pestilence : from ancient times to the present. New York, Facts On File ; [London : Eurospan, distributor].
古代から現在までの世界各地の流行病の歴史を700件のエントリーで説明している辞典。とても便利なものだと思う。ポイントは、多少複雑だが独創的で有用なレファレンスの方法を用いていることである。索引は巻末に3種類ついており、病気ごと、地域や国家ごと、そして年代順とある。この3者を組み合わせて使うと、それぞれの流行の全体像と地域ごとの流行を発見し調べることができる。たとえば、コレラの流行を調べたい、それも第二回の流行と呼ばれる、世界的には1826年に始まり、イギリスには1832年に、フランスでは1832-33年に流行したものに関して調べたいとしよう。そうすると、巻末の病名が並んでいる索引で<コレラ>を引くと、<アジアコレラのパンデミー1826-1837>という項目が挙げられ、<ペルシアの1829年から30年のコレラ>、<ロシアの1829年から31年のコレラ>、<イギリスの1832年のコレラ>、<フランスの1832-33年のコレラ>などの項目が挙げられているから、それぞれのエントリーを調べればよい。<アジアコレラのパンデミー>のような上位概念を項目として取っていない場合でも、年代順の索引から、同じ病気ごとに近い年代のものをまとめると、複数の国や地域にまたがった一つの流行だった可能性がある。それぞれのエントリーには参考図書として複数の学術書が挙げられ、その一覧は巻末の文献表に掲げられている。これは、本来はウェブ上やPC上で自在に検索できるようなフォーマットのほうがいいのかもしれないが、いまの形でも非常に役に立つレファレンスであることは間違いない。