フランケンシュタインは怪物の名前というのは「誤解」なのか?

 
今日のOED は複合語をつくる連接要素 (combining form) の Franken-。遺伝子操作・遺伝子組み換えされたという意味。20世紀の後半から21世紀に定着した。語源は今年出版200年である小説 Frankenstein に登場する怪物(creature) にちなんだもの。遺伝組み換えの果物を frankenfruit, 食べ物一般を frankenfood のように言う。
 
もちろん Frankenstein はメアリー・シェリーが書いた小説、Frankenstein, or the Modern Prometheus の主人公である科学者の名前であり、彼が合成的に作った怪物の名前ではない。しかし、日本語はもちろん英語でも、その怪物のことを Frankenstein という誤解は完全に定着している。そして「誤解」と書いたけれども、OEDが挙げる引用の著者を見ると、1838年グラッドストーン、1889年のシドニー・ウェッブとG.B.ショー、1958年のアイザック・アシモフたちが並ぶ。 つまり、一方にグラッドストーンらの超大物たちが「フランケンシュタインは怪物の名前だ」という前提で物を書いていて、もう一方には原作者のメアリー・シェリーが半ば孤立して「原作ではフランケンシュタインは科学者の名前です」と言っている構図になっている。SF作家のアシモフまでフランケンシュタインを怪物の意味で使っている。OEDがこの見解に軍配を上げたと解釈できる。
 
2018 年、フランケンシュタインの研究者は、日々血みどろになってこの「誤解」と戦うのだろうか。それともその希望を持てない戦いが「まるでフランケンシュタインみたいだね」とか言って、実は寝返っていくのだろうか。
 
 
1838   Gladstone in Murray's Handbk. Sicily (1864) p. xlvi   They [sc. mules] really seem like Frankensteins of the animal creation.
1889   S. Webb in G. B. Shaw Fabian Ess. Socialism 38   The landlord and the capitalist are both finding that the steam-engine is a Frankenstein which they had better not have raised.
1958   I. Asimov Naked Sun xiv. 172   Do you know robots started with a Frankenstein complex against them.? They were suspect. Men distrusted and feared robots.