雑誌『精神科』2017年9月号より各国の精神科医療事情の紹介

科学評論社が刊行している雑誌『精神科』が、2017年の9月に特集を出しました。特集を二つ組んでいて、一つは各国の精神科医療事情、もう一つは措置入院の現状と課題です。どちらもとても面白い論文が多いです。私は「各国の精神科医療事情」に、イギリスの精神医療の歴史が、現在の社会と文化の風景に大きな影響を与えているものになったことを書きました。
 
このような医学系の雑誌を、人文社会系の研究者がどのように入手して読めるのか、ちょっとわかりません。大学図書館や市の図書館が購読している場合には問題なく読めるのでしょうが、そうでないときには難しいのかもしれないです。
 
面白い話をいくつか。一つはアメリカのメンタルヘルスは投薬とカウンセリングの二つからなっている。カウンセリングの主役になるのはサイコロジストで、これは医師と同等の立場である。日本にはこれがいないのが残念である。アメリカのサイコロジストは医療保険をつかって相談に来る多様な訴えにあずかる。「ペットが死んだ」「子供の成績が悪い」「恋の告白をしたけどうまくいかなかった」などのカジュアルなものを受ける。ただ、このようなカジュアルな段階でもサイコロジストに相談できることが症状の重篤化を防いでいるという。うううむ(笑)
 
一方アメリカのサイカイアリストとなると、サービスの多様化と支払いの複雑さが印象的である。州によって何ができるかが違う。ニューヨーク州では電気ショック療法が可能だが、コネチカット州ではそれができない。外国人から見ると、とんでもなく根本的な差異である。メディケイドとメディケアの区別ですら私はついていないが(笑)、それをはるかに超える複雑さをアメリカの健康保険は提供している。4つに分けられて説明されていた。
 
スウェーデン。1960年代には大規模な精神病院で、36,000床だったという。そこから小さなセクトに分割することがはじまって、現在では4,400 床ですんでいるという。
 
そして基本的なデータを手にすることができる東アジア。これは貴重なデータがあったので、それを掲載して別記事にします。
 
精神科医療事情のほうの一覧はこのようなものです。ぜひご覧ください。
 
表西恵. "米国の精神科医療事情―アメリカ社会におけるサイコロジスト." 精神科 31, no. 3 (2017): 183-86.
齋藤恵真. "米国の精神医療事情―精神科医の立場から." 精神科 31, no. 3 (2017): 187-92.
木村真理子. "カナダの精神医療と脱施設課政策." 精神科 31, no. 3 (2017): 193-98.
鈴木晃仁. "イギリスの精神医療の歴史." 精神科 31, no. 3 (2017): 199-203.
大島一成ほか. "フランスの精神科医療事情." 精神科 31, no. 3 (2017): 204-10.
奥野敦史. "スウェーデン精神科医療事情." 精神科 31, no. 3 (2017): 211-16.
植田俊幸. "ドイツの精神医療―ベーテルとハノーファの精神保健刺殺." 精神科 31, no. 3 (2017): 217-21.
田形弘実ほか. "東アジアの精神科医療事情." 精神科 31, no. 3 (2017): 222-25.