スカンディナヴィア諸国の優生学と不妊手術

Broberg, Gunnar, and Nils Roll-Hansen. Eugenics and the Welfare State : Sterilization Policy in Denmark,  Sweden, Norway, and Finland. Uppsala Studies in History of Science. Rev. pbk. ed ed.  Vol. v. 21:  Michigan State University Press, 2005.

 

優生学というとナチス・ドイツをすぐ思い出す人が多いだろう。これは色々な意味で正しいが、間違っている点も多い。間違っている点の一つは、その方法である。優生学を実現する方法において、ナチス・ドイツは殺害の方式を取って、これは極めて例外的であった。精神疾患の患者を特別な精神病院に移動して、そこで殺害するという方法であり、そうやって殺された人間が約7万人である。殺害というのは、優生学の代表的な方法ではない。代表的な方法は、遺伝の可能性がある疾病を持っている人に不妊手術を行うことである。これは広範に行われた政策であり、メリットどデメリットの双方を持ち、各国でその両者が研究されている。その研究が日本の優生学不妊手術が強く参考にするべきであるが、マスメディアではナチスを参照する人たちが多すぎる。

きちんとした史料に基づき、政治的な問題意識もしっかりしているのが、スカンディナヴィア諸国の優生学不妊手術の歴史の研究である。ボロベルク先生が編集したものが英語になって2005年に刊行されている。ドイツの影響、科学の影響、女性の進出の影響など、優生学的な不妊手術と錯綜したさまざまな多様な要素が分析されている。どの国家も、1930年代から40年代に優生学不妊手術が頂点に達し、50年代から60年代に没落した。それからしばらくして、優生学不妊手術を少し過去の倫理的な問題として取り上げる意見の風潮があり、ドイツやアメリカの優生学の再検討があり、2000年近辺にまとまった研究が現れるようになった。日本でも、ニュースに現れるのは倫理的な批判が多いという印象を私は持っている。もちろん批判されるべき点を多く持っている。その一方で、中絶の成立、70年代には優生保護法不妊手術が減退したこと、女性の割合が高いこと(スカンディナビアもそうであって、スウェーデンは90%を超えているという)など、色々な様相をきちんとした学者が調べて適切に提示することが必要だと思う。この問題のためには、史料の発見が難しいのだろうけれども、あと数年でまとまった研究が出てくるだろうと私は楽観的である。どのくらいの不妊手術の数なのか、それを提示しておく。 Exclusive medical ind. というのが、周りを読んでどういう基準なのかがよくわからない。

Country

Period

Number of Sterlizations

Population

Denmark (excl. medical ind.)

1929-1960

ca. 11.000

4,281,000

Norway (excl. medical ind)

1934-1960

ca. 7,000

3,280,000

Sweden (excl. medical ind)

1935-1960

ca.17,500

7,042,000

Sweden (incl. medical ind)

1935-1960

ca. 38,900

-

Finland (excl. medical ind)

1935-1960

ca. 4,300

4,030,000

Finland (incl. medical ind)

1935-1960

ca.17,000

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