イギリスにおける医学史の発展について

私がイギリスに留学している1989年から1996年という期間は、イギリスにおける医学史研究が非常に急速な発展をした時期であった。1970年代に始まり、現在でも発展が新しい方向に展開している。1970年代には、イギリスの医学史研究はアメリカやドイツよりもずっと弱く、新興国の特徴があったのかもしれない。そのように弱体の医学史研究を、一流国の医学史にあっという間にしようという態度があり、これは複雑な意味があるが、たしかに面白い。私がしたその経験を『近代日本研究』という雑誌に研究ノートで書かせていただいた。そこでは用いなかった事例だが、その変化の一部の事例が自分の本棚にあり、そこもちょっとまとめておく。
 
話題はウェルカム医学史研究所が行っている展覧会である。たまたま、そのカタログが、1986年のものと1997年のものがあった。この10年という間隔は、両者を大きく変えている。1986年は表紙がオレンジなだけで、あとは白黒のパンフレット。1997年は表紙も中身もオールカラーである。図表についても、1986年のものは、一枚だけ白黒のイラストがはさまれている。これは L.A. Waddell という19世紀末の医者で、インドで西欧医学を学び、インドやチベットの事象に魅せられた人物がスケッチした「生命の循環」である。スケッチされたのは20世紀、もともとはある修道院にある8世紀の画像、それはさらに2世紀から6世紀のインドのアジャンタ遺跡にさかのぼれるとのこと。素晴らしい図である。しかし、1997年のものは、大きなカラー図版が10点以上も織り込まれている。図版は15世紀から20世紀で、死を社会文化の脈絡の中においたものである。たしかに、10年前のパンフよりずっと豪華になった。それもカラー図版をたくさん用いたのは確かに感心する。しかし、このような発展が、現在では、以下のウェブサイトで展開されている、さらにゴージャスで多くの言説があるものになっているということだと思う。
 
 

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