身体各部から作られるマーケット、病院での死、家庭での死

Pfeffer, Naomi. Insider Trading : How Mortuaries, Medicine and Money Have Built a Global Market in Human Cadaver Parts. Yale University Press, 2017.

昨年刊行された医学史の著作がとても面白そう。重要な臓器の移植は腎臓、心臓、肝臓、肺などがあり、これらは推進され批判する人々がいる形でよく研究されているが、そうではないあまり重要ではない身体部分の利用に関しては、これまで見落とされてきた。肌、骨、角膜などの死体のあまり重要でない各部や、ホルモンなどについては、それに関する規則がなく、死体から各部が取られ、市場に乗って世界のさまざまな人々の需要に答えるというメカニズムがあったとのことが概要である。もっと丁寧に読んで、来年の授業に取り込んでみよう。

この利用として、死体が病院で発生するという重要な条件がある。もともとは自宅が人が死ぬ場所で病院での死は少なかったのが、完全に逆転した。この本のイングランドウェールズの統計と日本を較べてみると、日本は20世紀の後半に病院化というか脱自宅化が急速に進展し、たぶんイングランドを抜いている。イングランドでは20世紀前半に、日本では20世紀後半に大きなシフトがおきている。イギリスでは1897年には病院とワークハウスが12.0%、自宅が86.7%だが、1967年には病院などが55%、自宅が41.9%になっている。Wikipedia に掲載されている近年データでは、病院などが75%、自宅が18%くらいである。日本では、1950年には病院と診療所が11.7%に自宅が82.5% だったのが、2009年には病院などが80.8%で自宅が12.4% と、完全に逆転しただけでなく、イギリスよりも病院死亡が高く、自宅で死亡の割合が低くなっている。イギリスと同様にメジャーな臓器は法律によって守られているのだろうけれども、そうではない部分というのは日本ではどうなっているのだろうか。

 

イギリス

  Lunatic Asylum Hospital Workhouse Elsewhere, mostly at Home Total Deaths Number
1897 1.3 4.4 7.6 86.7 541487
1907 2.0 6.7 10.0 81.3 524221
1957 2.9 43.8 2.9 50.4 514870
1967 3.1 51.5 3.5 41.9 542516

 

日本

第5表 死亡の場所別にみた死亡数・構成割合の年次推移      
年次 総数 病院 診療所 介護老人 助産所 老人 自宅 その他
  構成割合(%)            
1951 100 9.1 2.6 0 82.5 5.9
55 100 12.3 3.1 0.1 76.9 7.7
60 100 18.2 3.7 0.1 70.7 7.4
65 100 24.6 3.9 0.1 65 6.4
70 100 32.9 4.5 0.1 56.6 5.9
75 100 41.8 4.9 0 47.7 5.6
80 100 52.1 4.9 0 38 5
85 100 63 4.3 0 28.3 4.4
90 100 71.6 3.4 0 0 21.7 3.3
95 100 74.1 3 0.2 0 1.5 18.3 2.9
2000 100 78.2 2.8 0.5 0 1.9 13.9 2.8
5 100 79.8 2.6 0.7 0 2.1 12.2 2.5
7 100 79.4 2.6 0.8 0 2.5 12.3 2.4
8 100 78.6 2.5 1 - 2.9 12.7 2.3
9 100 78.4 2.4 1.1 0 3.2 12.4 2.4

 

https://en.wikipedia.org/wiki/End-of-life_care