医療者の<内部の世界>における人種とジェンダーの問題を考えるために

Gesnerus

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Laurence Monnais and David Wright eds., Doctors beyond Borders: The Transnational Migration of Physicians in the Twentieth Century (Toronto: University of Toronto Press, 2016) の書評を書きました。スイスの医学史の雑誌 Gesnerus です。Gesnerus は、スイスの言語の豊かな状況を反映して、ドイツ語、フランス語、イタリア語、そして英語で原稿を書くことができます。この書物は、私の専門主題ではないのですが、ライト先生の推薦で読み、感心しながら書評を書きました。非常に面白い大きな主題をソリッドに分析する素晴らしい論文を集めたものです。
 
その主題は、人種とジェンダーに関する問題を、医療者世界の<内部において>検討しようというものです。医療者たちが、医師の場合は白人男性、看護師の場合は白人女性だったときに、患者における有色人種やジェンダーの問題は、研究がかなり進んでいます。しかし、医療者たちが自らの内部での人種やジェンダーの問題を扱うときには、基本的には人事とキャリアの問題になり、差別とは別のジャンルの話になります。有色人種については、医学校への進学と医師としての活躍はもちろん進展しました。女性の進出についても同じです。しかし、そこで起きたのは、露骨な差別ではなく、地味な診療科やポジションを選んでいくようなドライブがかかる。そして、そのような力が、医学の内部で職の分配を決めていく重要な構造になる。身体上の違いによって医療専門職がいまだに構成されていくような形になるという議論です。民族やジェンダーの研究をしている方々にとって、医療職の内部での議論を分析した必読の書物だと思います。近現代の日本においても、人種と女性医師の歴史と現在と未来の問題を知るためには、お読みください。必要な方には書評をお送りいたしますので、ご一報ください。本号には、阪大の経済学研究科のドンゼ先生の、スイスの病院の歴史に関するご著作の書評も掲載されていますが、これはご著作も書評もフランス語で執筆されてという離れ業です!